絵本作家の簡単ごはん

スロバキアの家庭料理 “カプスニツァ”|降矢なな

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絵本作家のみなさんに、お気に入りのレシピを教えてもらいました。それぞれの家庭の定番料理から、旅先での忘れられない味を再現したものまで……2000年から2002年にかけて「こどものとも年少版」折込で連載されていた「私の料理自慢」を改題・再掲いたします。作家たちの素顔が垣間見えるエピソードとともにお楽しみください。

第8回は『めっきらもっきら どおんどん』『きょだいな きょだいな』などの絵本で知られる降矢ななさんです。

スロバキアの家庭料理“カプスニツァ”

降矢なな

私が、現在暮らしているスロバキア共和国の首都ブラチスラバ市を初めて訪れたのは、今から10年前、旅行者としてだった。

1泊したウィーンのホテルを早朝発つ際に、前夜飲み残した牛乳をどうしようか……と迷いつつ、結局グビグビ飲み干し、南駅からブラチスラバ行きの列車に乗った。約1時間半で目的地に着く。が、列車途中から胃がシクシクし始めた。(料理自慢ののっけから、こんな話でゴメンなさい!)最悪の事態はまぬかれたものの、旅行カバン片手にお腹を押さえ、駅のホームに降りたときの情けなさ。ホテルに荷物を下ろしても、鬱々。

ほんとはホテルで横になっていたかったけれど、前の年にここを訪れた知人が、「89年の社会主義崩壊以降、いろいろ混乱しているから、店でパンを見つけたら、即、買いなさい。すぐに売り切れて手に入らなくなる」と言っていたのを思い出し、秋の涼しい街中へよろめき出ていった。パンは食品店ですぐに見つかったが、ちょっと古そう……でも無いよりましと、丸パンを3つ買う。手に入ったパンの紙袋を握りしめ、花壇のふちに腰掛けてしばらく人の流れを眺めていた。何もかも灰色。手持ち無沙汰にちぎって口に入れたパンは、悲しいほどバサバサ。(単に売れ残りの古パンだっただけ。この年にはパン問題は解消していた)

このままでは雪崩のように落ち込んでしまう……い、いかん! 何かあったかいものを胃に入れよう。(私の胃の回復は早い)

近くにあった公園の中にこぢんまりしたレストランが見え、ドアを押して中に入る。昼食時のピークは過ぎていたので、お客はまばらだったが、白いテーブルクロスが清潔そう。席に腰掛け、メニューを見るが、何が何だかわからない……。そのとき、私の前方に一人で座っていた初老のご婦人のところに、小丼ほどのガラスボールが運ばれてきた。湯気をたて、太陽のようにオレンジ色に輝くスープ‼ 私は迷わず同じものを注文した。

これが今回ご紹介する“カプスニツァ”との初出会いだった。ザワークラウトをパプリカで煮込んだ酸っぱいスープ。あのときの一口は、まさに胃の腑に染みるおいしさだった。胃袋から体があたたまり、再び街へ繰り出したとき、目に映った景色は、もう灰色ではなくなっていた。

カプスニツァは家庭料理。各家庭それぞれのレシピがあるが、今回は美大で肖像画デッサンを教えている木版画家、ルマンスキ一教授秘伝のレシピです。では寒い日、冷えた体を思い切りあたためたいときにどうぞ召し上がれ。

© Nana Furiya

★カプスニツァのレシピ(約10人前)

【材料】
A
ザワークラウト…500グラム
玉ねぎ(粗いみじん切り)…中1コ
ビーツ(赤かぶ)(約1センチ角切り)…中1コ
スモーク肉(もも肉とかスペアリブなど骨付きがよい。丸のまま)…250グラム
粗挽き生ソーセージ(薄くスライス)…100グラム
粒黒こしょう…20粒(好みで加減)
ローリエ(月桂樹の葉を乾燥させた香辛料)…2枚
パプリカ粉(甘口)…大さじ2
粒クミン…中さじ2

B
ブタ肉(赤身、適当な大きさ角切り)…200グラム

C
じゃがいも(1~2センチ角切り)…中4コ
にんにく(スライス)…1株

【作り方】
Aを大鍋に全部放り込み、ザワークラウトの酸っぱい汁と水を合わせたものを、具がたっぷりつかるまで注ぎ、強火で煮る。

①が煮立ったらBを加え、沸騰したら弱火にし、ときどき水を加えながら約2時間煮込む。

②にCを加えて、さらに30分煮込む。煮込みながら好みで塩を加え、味を調えてゆく。

肉やじゃがいもがやわらかくなったら出来上がり。一晩寝かせると、味がまろやかになる。アツアツをスープ皿または小丼に入れ、好みでサワークリームを1さじ落とすとよい。

※「こどものとも年少版」2001年11月号折り込み付録より改題・再掲
※表記を一部修正のうえ、再掲しております

\おいしそうな料理はほかにも…/

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