連載「絵本の選びかた」では、絵本選びに迷う方に向けて、絵本の楽しみ方や選び方のヒントをお届けしていきます。今回は、昔話のおすすめの絵本リストをご紹介。
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「むかしむかし、あるところに……」
世界中の様々な国や地域で、その地の文化や習慣を背景にした物語が、「昔話」として長く語り継がれてきました。生きるための知恵や、困難や悲しみへの向き合い方……昔話には、人々が長い時間をかけて大切に受け継いできたものが、たっぷり詰まっています。
こちらの記事では、子どもたちの世界や視野をぐっと広げる昔話を9冊取り上げ、読者の感想とともにご紹介します。
まずご紹介するのは、日本の文化や習慣、風土を反映した、日本の昔話絵本。
「ももたろう」や「かぐやひめ」などの有名なお話は、語ってあげる大人にとってもなじみ深く、親子で昔話を楽しむときの入り口としてぴったりです。昔話には、現在はあまり使われない言葉が出てきたり、なじみのない風習が描かれていたりすることがありますが、絵とともにお話を味わえる「昔話絵本」なら、場面ごとに描かれた絵が、昔話の世界に入っていくときの大きな助けになります。
桃から生まれた「ももたろう」が、犬、猿、キジとともに悪さをする鬼を退治しに鬼ヶ島へ向かう……「ももたろう」は、日本の昔話の中で、最も有名なお話ではないでしょうか。
はじめは赤ちゃんだったももたろうが、たくましく立派に成長し、仲間の動物たちと協力しながら鬼たちと戦って勝利をおさめる。そんなシンプルな物語が、ぐんぐん成長していく子どもたちの心を惹きつけます。

色々な本が出ている中、味のある絵と美しい日本語で書かれていた本書を選びました。桃が流れてくるときの「つんぶく かんぶく」という言葉を、日常生活の中でもつぶやいています。「ももたろうさんみたいにいっぱい食べて大きくなる!」と意気込んでいる姿に、本書を買ってよかったと思いました。(お子さん:2才)
おそらく日本一有名な昔話、もちろん私も息子も物語の展開は知っていました。 しかし、読んでみるとどっぷりと世界に誘われます。語りのリズムがよく、読んでいても心地がよいです。 (お子さん:5才)
語り継がれてきた形を大切に、本物の「ももたろう」を子どもたちに……。そんな思いで作られた絵本『ももたろう』は、昔話らしい抑揚のきいた語り口が心地よく、絵巻を彷彿とさせる絵が味わい深い、昔話の魅力が詰まった1冊です。
『さんまいのおふだ』は、怖さとおかしみを兼ね備えた昔話絵本。お寺の小僧が山で泊めてもらったのは、なんと恐ろしい鬼婆の家でした! 小僧は「便所にいきたい」と言ってその場を逃れ、便所の神様からもらった3枚のお札を手に、寺まで必死に逃げていきますが……
おふろに入っているときに、突然子どもがこのお話を語り出しました。保育園の本棚にあったこの絵本を、気に入って繰り返し読んでいたようです。後日、保育園でこの絵本を見て、絵の魅力に驚きました。ちょっと漫画チックな絵がお話とマッチしていて、大人の私も楽しめました。

勢いのある語り口調でお話が展開していき、鬼婆から必死に逃げるスリルを子どもたちも一緒に味わうことができる、新潟の昔話です。
そして、ぜひ注目してほしいのが、最後に登場する和尚さん。あっと驚く方法で鬼婆を退治する和尚さんの余裕あふれる態度と、その様子を見ている小僧の表情に、思わずふふっと笑ってしまいますよ。
『いっすんぼうし』は、小さな体で縦横無尽の活躍を見せる、一寸法師のお話を絵本にした1冊。
おじいさんとおばあさんのもとに生まれたのは、小さな小さな男の子の赤ん坊。「いっすんぼうし」と名付けられた男の子は、お椀を船にして川へ漕ぎ出し、都の大臣のもとで働くことになりました。すると……
方言や語り口調ではなく、現代語で書かれているので、読みやすいです。日本画家・秋野不矩さんの絵も美しいです。姫の艶やかな様子、迫力のある鬼を退治する場面など、物語の魅力を引き出しています。(お子さん:5才)
石井桃子さんの文章と秋野不矩さんの美しい絵のこの絵本は、日本昔話の魅力を最大限に発揮しているのではないかと思います。息子とよく読む昔話の1つです。

「うさこちゃん」シリーズなどの翻訳で知られる 石井桃子さんのすっきりとした文章と、秋野不矩さんによる優美な絵で、登場人物たちが活き活きと描かれた絵本です。
さまざまな国や地域の昔話に出会うことは、その地で大切にされてきた文化や価値観に出会うことでもあります。現代では、世界中の情報を気軽に手に入れられるようになりましたが、世界各地で受け継がれてきた物語を読むと、それぞれの国や文化に、より親しみを感じられるようになります。世界の昔話を楽しみながら、言葉や文化の異なる人々の暮らしや考え方にふれてみるのはいかがでしょうか。
「うんとこしょ どっこいしょ」という愉快でリズミカルなフレーズで知られる、ロシアの昔話絵本『おおきなかぶ』。おじいさんが植えたかぶが、とてつもなく大きく成長し、みんなで力を合わせても、なかなか抜くことができません。
読み聞かせをすると、「うんとこしょ どっこいしょ」のところでかぶを引っ張るマネをしたり、とても楽しそうに集中して聞いてくれます。私自身も小さい頃に読んだ絵本なので、なつかしく思いながら読み聞かせしています。(お子さん:3才)
自分も昔に読んだことのある物語を子どもと読むことで、親子いっしょに楽しめました。世代を超えて楽しめる1冊です。子どもは体を動かしたり、くり返し読んだり、嬉しそうな反応をしたり、親から見ていても子どもの新しい一面が発見できました。(お子さん:3才)

なかなか抜けないかぶのために、おじいさんの家族や動物たちが次々にやってくる、くり返しのおもしろさ。そして、最後にやってきた小さなねずみの力で大きなかぶが抜けるという痛快さ。長く語り継がれてきた昔話のおもしろさを、存分に味わえる骨太な物語です。
続いては、お姫さまが登場する幻想的なおとぎ話を。グリム童話をもとにした絵本『ねむりひめ』は、錘(つむ)に刺されて深い眠りについた、美しいお姫さまの物語。
子どものころ読んでもらった絵本の中で、一番のお気に入りでした。魔女の恐ろしさや、盛大な宴の様子に息をのみ、みんなが眠りに落ちる場面などは、ページをめくるたびに新しい発見があり、想像力をかき立てられました。子どもたちにもずいぶん読みましたし、今でも時々読み返すと、美しいイラストに童心に返るようです。

この絵本の見どころは、姫とともに眠りについたお城が、見開きを斜めに横切るように描かれた場面。姫のところまで階段を上っていく王子の足取りが絵からも感じられるようになっているんです。絵を手掛けたのはスイス出身の画家 フェリクス・ホフマン。美しく幻想的な雰囲気で、子どもも大人も物語の世界に引き込まれる絵本です。
モンゴル民話『スーホの白い馬』は、馬と少年の絆を軸にした哀切な物語。国語の教科書で出会ったという方も、多いのではないでしょうか。モンゴルの大平原を舞台に展開する物語に、子どもはもちろん、大人も感情を揺さぶられます。
赤羽末吉さんの絵の力に親子でひきつけられ、心をゆさぶられました。子ども向けでありながら、それにおさまりきらない! 大人でも魅了され、心を動かされるスケールの大きさに感動。まさに良書でした。(お子さん:3才)
小2の孫が国語の教科書で読んでいましたが、赤羽末吉さんの絵で体験させたく購入しました。草原のひろがりや時の移ろいを感じる色あいの中で、スーホや白馬の思いが迫ってきました。下の5才の子も夢中になり、読みおわると「悲しいお話だった」と一言もらしました。(お子さん:小学低学年)

お話のかぎを握るのが、モンゴルの伝統的な楽器「馬頭琴」。どんな音色の楽器なのか、その由来に思いを馳せながら、親子で語り合ってみるのもいいかもしれませんね。
絵本で昔話に出会い、もっといろんなお話を楽しみたい思った子どもたちには、おもしろい昔話をまとめたお話集はいかがでしょう。挿絵もたくさん入っているので、大人が読んであげるのにも、自分で読みたい子に手渡すのにもぴったりです。
厳選された昔話を12話ずつ収めたお話集。『よりぬき 日本の昔話 ももたろう ほか』と、『よりぬき 日本の昔話 さるかにかっせん ほか』の2冊が刊行されています。昔話本来の語りを忠実に再話した本格派ですが、バラエティに富んだ親しみやすい挿絵で、昔話になじみのない子どもたちも楽しめるシリーズになっています。
愛らしいイラストと複数の短話が読みやすくてよかったです。長い昔話はまだ理解が難しい、幼い子どもへの読み聞かせにも適していると思います。表紙のあたたかみのあるイラストに惹かれて購入し、ファンになりました。(お子さん:小学中学年)

表題作「ももたろう」「さるかにかっせん」のほか、「かちかち山」「舌切りすずめ」「つる女房」「わらしべ長者」など、おもしろいお話がたっぷり楽しめます。
『ねえねえ、きょうのおはなしは……』は、「あかずきん」や「小びととくつ屋」など、世界中の昔話から選りすぐった20話をまとめたお話集です。おやすみ前に1話ずつ読んであげたり、自分で読めるようになった子に手渡してあげたり、いろいろな楽しみ方ができる1冊。
小学1年生になった娘に本を探していて、この本に出会いました。寝る前の読み聞かせは保育園までと思ってやめていたのですが、最近「絵本読んで」と言われて再開。毎晩楽しみにしている娘の顔を見ると、物語を聞く楽しみに年齢制限はないなぁと実感します。(お子さん:小学低学年)
小4、小2の子どもたちに、最近は絵本ではなく、文庫など児童文学の読みきかせをしています。やっぱり、びっくりする展開の海外の昔話は、読んでいて楽しく、おもしろい。もっともっと知りたい。世界を子どもたちに伝えるきっかけです。(お子さん:小学中学年・低学年)

『スーホの白い馬』の再話などで知られる大塚勇三さんが紹介してきた昔話を集めているので、どれもおもしろく、子どもが喜ぶものばかり。PEIACOさんによるかわいらしいイラストも、子どもたちが興味をもつきっかけになりそうです。
『さてさて、きょうのおはなしは……』は、日本と世界の昔話が28話収録された、読んでも聞いても楽しいお話集です。再話や訳を手掛けたのは、『3びきのやぎのがらがらどん』『おおかみと7ひきのこやぎ』の訳などで知られる瀬田貞二さん。味わい深い語り口で、子どもたちを昔話の世界にいざないます。
瀬田貞二さんの絵本が好きで、書店でこの本をみつけてすぐ手に取りました。絵本で読んだことのあるお話でも、文字だけで読むとまた違ったイメージが頭の中でふくらみ、おもしろいなとあらためて思います。ひとつひとつのお話は長くないので、子どもにも読んであげたいと思います。
スタンダードなおはなしが1冊にまとまって嬉しいです。しかも日本と世界が1冊に! 語りやすい口調に再話されていて、何よりも本の装丁がちょうどよい大きさで、軽く、文章の行間のとりかたも見やすくよいと思います。

日本のお話では「かさじぞう」や「ねずみじょうど」、世界のお話では「三びきの子ぶた」や「おだんごぱん」など、絵本でおなじみの昔話も。いろいろなお話をまとめて楽しめる、大満足の1冊です。
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